坂木司『楽園ジューシー』(角川文庫)の感想になります。
※ネタバレを含みます※
坂木司『楽園ジューシー』(角川文庫)
同著『ホテルジューシー』の続編
2025年2月も半ば、書店に行くと日常ミステリ系で私の好きな作家、坂木司の新作が文庫で発売していた。
タイトルを見ると、どこか既視感が...どうやら同著『ホテルジューシー』の続編だった。前作を読んでいたから早速読んでみた。
後述するが、主人公は前作の「ヒロ」とは違い、少年期に暗黒時代を過ごしたせいか別の意味で凝り固まった性格をしており、また前作とは違ったテイストで進行するお話も多く、面白かったのだが読後感は良い意味で完全に別物だった。
坂木司の読みやすい文体と南国青春ミステリ
あらすじ
主人公のザッくんは、過去のトラウマから人間関係に悩む大学生。
親友たちに背中を押されて沖縄の安宿「ホテルジューシー」でアルバイトをすることになる。そこは個性的な宿泊客が集まる場所だった。
ザッくんはホテルでの日々を通して様々な人出会い、昼は超アバウト、夜はしっかりしている変わったオーナー代理と宿泊客との交流で日常の謎を解き明かしていく。
彼らとの関わりの中でザッくんは少しずつ自分自身と向き合って成長していき、ザッくんの新しい旅が始まる。
相も変わらず舞台は沖縄、安宿の「ホテルジューシー」
主要な登場人物たちも前作から引き続きオーナー代理の安城さん、お掃除担当のセンばぁとクメばぁ、朝食担当の比嘉さんなど、個性のある人たちも登場しておりました!
また変わらず「ホテルジューシー」に泊まるのは一癖も二癖もある人達、そのお客様たちとの間で発生する日常の謎を解き明かしてくのも、健在で面白く読むことができました。
観光名所の描写なども出てきましたが沖縄には行ったことがないので、いつか沖縄旅行に行き観光してみたいですね。
沖縄独自の文化
本作ではザッくんのホテルでのアルバイトを通して、美味しそうな沖縄料理や独特な文化や観光名所に文章越しに触れることで、沖縄の魅力の一部を感じることができた気がします。
物語を通して、独自文化である
・沖縄は台風が多いから、買い物に行かなくても作れる料理が多い。
・家父長制があり、結婚していない女性は家のお墓に入れない。
なども恥ずかしながら今更知り勉強になりました。
また紅イモの害虫は本土にいないから、持ち出し禁止なども為になる話を知ることができて良かったです。
ザッくんの影響か沖縄料理関連の描写も多く、坂木司の食事の描写が随所にあって、美味しさを追体験できるような楽しい気持ちになれました。
ただし最終章にて突如刺してきてビターな気持ちになる
本作を読んで多くの人が一番刺さったのは最後の「君ではない」の話だろう。
寧ろ上記以外は前作と同じテイストで安心しきった心で読んでいたからか、突如出てきた最後のエピソードにやられた人も少なくないと思う。
ザッくんこと松田英太は今まで過去のいじめやルッキズムなどから卑屈さや自分自身も気づかないうちに他社を色眼鏡で見てしまうこと、などを無自覚ながら抱えて生きているように見えた。
そんな中、沖縄で出来た友人のユージーンに車を出してもらい米軍基地のフリーマーケットに連れて行ってもらった際に鋭い一言を投げかけられ、さらにアマタツやゴーさんにメールでそれを愚痴のようにこぼした際にもとどめのように指摘をされたシーンは似たような立場だと思っていた関係を持つ人たちに指摘されたからこそ、受動的かつ寄りかかるだけでは立ち行かない人間関係の難しさと自分自身への跳ね返りを感じてビターな気持ちになりました...
多分刺さったのは読んでいる自分自身も無自覚の内に同様のことを体験した、または身に覚えがあるなぁと思いました。
その時の苦い記憶が想起されるからだとは思うのですが、ザッくんは今まで周りから指摘をされなかった故の鋭さだったのかなとも思いました。大人に成長していく過程で自分の好みや損得の判断だけではなく、気遣いとかが育まれたのは、あまり意識していなかったのですが、人との繋がりを創り上げていく上で、重要な要素だからこそ「刺された」と感じた部分がありましたね...
今までの価値観が音を立てて壊れていき、傷つき泣きながらも少し視野を広げて成長したザッくんのこれからを感じさせる物語として落としてきたのは流石といったところでしたね。
ほろ苦さを感じさせながらも成長物語として面白かったです。
ザッくんのこれからとまた一つ成長した姿も見てみたいです。
