※ネタバレを少し含みます※
芦花公園『無限の回廊』(角川ホラー文庫)
佐々木事務所シリーズの最新作、物部斉清の死
あらすじ
「まだ?」と声が聞こえるたび、佐々木るみはそっと目を開いて、絶望に囚われる。最強の拝み屋・物部斉清が死んだ。
心霊案件を取り扱う事務所の所長である彼女は、
物部を巻き込んでしまったのだ。頼る者がいない中、るみは自らの中に巣食う獰猛で最凶の敵に立ち向かうことになる。
次々と開く扉の中で待ち受けるのは、はてなき悪夢と深淵。
とても面白かった。途中から、るみを取り巻く物語が多角的に加速して進んでいき、
終盤から結末へ向かう際には一気に全てが解決していく爽快さも感じられ、
途中のホラー要素との温度差もあって、読書後には余韻で整うことができました。
本シリーズでは最強の拝み屋や神そのものとまで形容されている男、物部斉清の死から
物語が始まる、その時点で大分事態の深刻さがありありと感じられ、
真に迫った恐怖を物語上演出できていて、更に二章からも急転直下で物語が
変わっていき、るみの記憶の整合性がとれなくなっていく様は
また別種のホラーミステリーとしての恐怖を感じることができました。
更に登場する怪異は関わったものから感染していき、心身ともに異常をきたすようになる強大な呪いや男性か女性かによって内容が変化する電子小説など
所謂2ch の洒落怖的なテキストベースでより人ならざるものに触れた際の恐怖などを
煽るホラーらしいホラーも描かれており、合間合間で人ならざる事象などにも恐怖を感じることができて息つく間もなくホラー要素を感じられたのも構成として
良いと思いました。
「無限の回廊」と銘打っているが、ハッピーエンドだといいね。
物語自体が「無限の回廊」というタイトル通り、物部斉清の死から、るみ自身が
納得しないままとなって生まれてしまった様々なIFを体験していくことになり、
辿り着いた結末は、るみ自身の過去から形成された自身の対応や性格、
そして青山を傷つけてしまったと過去の対応を後悔していた、そんな自分を少しでも
認められるかといった分水嶺を、最後に持ってききのは関係性の集大成的な
部分でもシリーズ的にとてもよかったのかなと思います。
衝撃の問題作と銘打たれてはおりますが、読んでみると途中の展開から
どのように進んでいくのか予想もつかず作者に翻弄されるが如く
様々な恐怖体験やホラーミステリー要素を感じることができて面白かったです!
とてもキリの良い終わり方で最終巻かと思いましたが、続編も出る様子...?
今後のシリーズ続編にもかなり期待大です!
以下、完全に妄想
るみ自身の「押し入れ」が開かなくなり物部斉清からも太鼓判を押されて
自体は収束した状態に見え、終わり方もハッピーエンドに見えるが「無限」という
文字が脳裏にチラついており、並行して「もしも」がまだ生まれているとしたら...
といった思考に囚われてしまっているため、ホラー的に大成功だと思います。
完全にやられております、ありがとうございました。