杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮文庫nex)の感想になります。
※ネタバレをかなり含みます、未読の方はお戻りください。※
杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮文庫nex)
父親が残した遺稿を探し、隠された真意を解き明かしていくミステリ
あらすじ
大御所ミステリ作家の宮内彰吾が死去した。
宮内は妻帯者ながら多くの女性と交際し、そのうちの一人と子供までつくっていた。それが僕だ。「親父が『世界でいちばん透きとおった物語』という小説を
死ぬ間際に書いていたらしい。何か知らないか」
宮内の長男からの連絡をきっかけに始まった遺稿探し。
編集者の霧子さんの助言をもとに調べるのだが――。
予測不能の結末が待つ、衝撃の物語。
後述しますが面白いギミックもさることながら、物語自体も心地よい読後感を味わえる
ものとなっており、面白かったです。
殺人のような血生臭いことは起きず、故人の生前を調査と共に追想していく形で物語は進んでいき、主人公・藤阪燈真と本作の探偵ポジションである編集者の深町霧子を
メインにお話は進んで行きます。
故人に関連した人物を辿っていく度に、朧げで霧に包まれた「宮内彰吾」という人物像が確かに型取られていき、徐々に輪郭を帯びていった過程は構成上良かったと思いますが、逆に形どられた結果、納得の伴わないものとなっていたのは少し残念でしたね。
途中出てきた部分に消化不良なものを抱えつつも物語としての面白さというより、
本作固有の仕掛けに目がいく作品だったように感じます。
紙の書籍だからこそ味わえる精緻な読書体験
随所に細かく当作品のトリックに関連した伏線は散りばめられていたのですが、
(と言ってもミステリを読んでいる人出なければ気が付かないような形)
これほどまでに精緻なものを仕掛けてくるのは手間暇の面で脱帽しましたし、
本作で明文化されている「文章よりミステリとしてラストが決まってないと」に
しっかりと則った素晴らしい仕掛けだったので、その点はかなりポイントが高かった。
ただ物語を構成する上で上記の仕掛けを本当に作用させたいのであれば、もう少し
宮内彰吾という人物に、この壮大な仕掛けをやってもおかしくないと
思わせるような描写が欲しかったと感じてしまった。
主人公サイド以外の登場人物に、仕掛けに伴う動機の面がかなり薄口に感じてしまった
ことが仕掛けと読後感の爽快さと乖離を生んでしまい、その点だけが残念だった。
と言っても本作の仕掛けは一読する価値は、もちろんあるし物語の文体や雰囲気、
作品としての面白さは2023発売の作品の中では上位に入るので、気になった方は
是非読んでみてはいかがでしょうか。
二作目の感想はこちらからどうぞ!