阿津川辰海『入れ子細工の夜』(光文社文庫)の感想になります。
※ネタバレを少し含みます※
阿津川辰海『入れ子細工の夜』(光文社文庫)
"騙り"と"語り"で彩られた4つの幻惑な短編ミステリー集
あらすじ
こいつは目が回るぜ、阿津川辰海! 反転! 反転! また反転。
語りと騙りの大渦巻が再び。 4つの油断ならない短編が巻き起こす、
幻惑の嵐をご堪能あれ。
作家と訪問者の息詰まる神経戦を発端に、
読者の認知を極限まで揺さぶる「騙り」の大逆転劇。
斯界の話題を独占した『透明人間は密室に潜む』から、
奇天烈な発想領域は更に拡大!
ハードボイルド、異常入試問題、二人劇、学生覆面プロレス――
若きミステリ界の新星が限界いっぱいに投げ込む、奇想に満ちた短編集。
入れ子細工の夜 - 光文社 から引用
やはり阿津川さんの作品は良い意味で本格派らしい様式美に則ったものが多く、
読んでいてミステリらしさを感じられるため、とても面白いです。
なんといっても「コロナ禍」による弊害をふんだんに盛り込み、
全ての短編に活かしており、あの時代を生きた人であれば自然と物語の舞台背景などを
察しやすくなっている部分にも一役買っていたのかなと思います。
阿津川さん自身もミステリ読みとして相当なもので、その下地を存分に発揮した
アイデアの爆発感を感じられるくらいに少し一癖もありそうな短編もあり、
令和の今どこか都筑道夫のような作風も感じられて、個人的には読んでよかったかなと
思いました。ただ、作者の作品を初めて読む方やミステリ初心者にはあまりオススメ
しづらい部分もあり個人的には少し中級者より上の層向けなのかなと感じました。
バラエティに富んだ題材で奇想が爆発力を感じる
あらすじにもある通り、短編自体の題材はかなりバラエティに富んでおります。
しかし、捻りが加わった/加わらないが短編によって顕著に出ている部分もあり、
その点物語自体が平坦となっている部分もあり、様々でしたね...
特に「二〇二一年度入試という題の推理小説」なんかは、設定自体は面白いものの
結末までが顕著になっており、「入れ子細工の夜」も構成が面白いがミステリとしては
最終的に構成以上のものが感じられなかった点が読んでいて残念でしたね...
と少し辛口に評してしまいましたが、ミステリ的な部分でいくとそれぞれの短編集の
登場人物はライトな人物像で物語を進める上で、突拍子もないことをやることも
あれば、物語自体が突拍子もない構成であるなど、色々な部分に趣向を感じられた
良い短編集であることは間違いないので、作者の作風が好きな方は読むことを
オススメしたいと思います!