※ネタバレを含みます※
井上真偽『アリアドネの声』(幻冬舎文庫)
災害で女性をどう助けるのかを主軸にしたミステリ、井上真偽の新境地。
あらすじ
巨大地震が地下都市を襲い、女性が遭難。しかも、彼女は「見えない、聞こえない、
話せない」三つの障害を抱えていた。頼みの綱は一台のドローン。操縦士のハルオ
は、遠隔から要救助者を発見し、安全地帯まで誘導するという前代未聞の作戦を
任される。迫る浸水。猶予は六時間。女性の未来は脱出か、死か――。
想像の限界を超える、傑作ミステリー。
『アリアドネの声』井上真偽 | 幻冬舎 から引用
結構面白かったです、文庫化されていたので気になって読みました。単行本時点で
何かと話題になっていて「想像の限界を超えたラスト、一気読み+二度読み必至の
反転サスペンス」など帯びで煽りに煽っていた印象。この煽りで期待値のハードルが
かなり上がっておりましたが、その割には些か拍子抜けしてしまいました。
面白かったには面白かったのですが、煽るほどのものでもなかったと思います。
蛇足ですが昨今の帯による煽り文化なんとかならないですか。
物語の設定は災害救助サスペンスでミステリ要素としては、どうやって「視えない、
聞こえない、話せない」を救助するか、が主軸になっている。主人公のハルオも過去に
自分が気がつけなかったせいで水害で兄を失ってしまったというトラウマを抱えており
「無理だと思ったら、そこが限界」という兄の口癖と一緒に抱えている。
災害サスペンス特有の次々と想定外の何かが襲ってくるという部分の緊迫感はまぁまぁ
あったけども、これだけ大きい大災害で救助活動の中で中川博美以外の遭難者の描写が
なかったから構成上仕方がないとはいえ、大災害という部分が弱かった気がする。
「実は目が見えている」という部分がどんでん返しとなるのですが、その点は
二度読み必至とはならないものの上手い仕掛けだったかなと思います。
救助活動全体を通してゲームのステージみたいでしたね。
ハルオのトラウマも救助活動を直接通しての解決というより、夢のことなどもあって
物語の結びつきの弱さがあって、直接的な感動に繋がりきらなかったように感じて
しまい最後のハッピーエンド部分も良さが薄れてしまいましたね...
物語として描き切った部分は良いけども、舞台設定に反してパンチの弱い部分が多くて
感動や良い部分が大きく跳ね上がらなかった作品だと思いました。
〈その可能性はすでに考えた〉シリーズなど、他にも良い意味でメフィスト賞っぽい
ミステリを描いていたのであまり井上真偽らしくない作品のように感じましたが、
エンタメに振り切った新たな作品と捉えれば良いのかなと思いました。
あまり期待値を上げすぎず、フラットな気持ちでミステリとして読まないようにすると
楽しめるのかなと思います。どの層にオススメとかはないのですが、ミステリとか
読まない層にもオススメできそうな作品の印象を受けました。
気になった方は是非本作も読んでみてください〜。
