香坂鮪『どうせそろそろ死ぬんだし』(宝島社文庫)の感想になります。
※ネタバレを含みます※
香坂鮪『どうせそろそろ死ぬんだし』(宝島社文庫)
余命宣告された探偵とその助手が招かれた余命宣告された人の交流会、巻き起こる事件の中で描かれる衝撃の結末とは。
あらすじ
探偵業を営む七隈は、余命宣告された人々が集う交流会のゲストとして、
助手の律と共に山奥の別荘に招かれた。
二人は交流会の参加者と食事をし、親交を深める。しかし翌朝、参加者の一人が
不審な死を遂げる。
自然死か殺人か。殺人であれば、余命わずかな人間をなぜわざわざ殺したのか。
七隈たちは死因の調査を始め――。やがて明かされる驚愕の真相とは?
「最初から最後までずっと罠ばかり。最大の罠は作風そのものかも」とか「二度読み
必死のミステリ」とか「超新星の二度読み必至「館」ミステリー!」など煽りまくられ
ましたが、まぁまぁでした。構成は光るものがあったものの、後半の展開が肌に
合わなかった。文体やキャラの描き方が構成や展開に追いついていないように感じた
のが残念。後から見ると煽り文は少し過剰かなとも思いましたね。
残念な部分と構成の良さは評価したくなる惜しい作品だったなという印象。
※以下、ネタバレを含みます※
途中余命宣告に対しての蘊蓄やそれぞれが罹患している病気の対する知識などの詳細な
記載は作者の職業的にも挟まれていたのは物語に深みを与えていた良かったと思いました。
物語の大筋の流れとしては余命宣告を受けた人が集まる交流会で不審死が起こり、
自然死か殺人かの調査を行う過程を描く中で調査していた探偵も死ぬという流れ、
ここで第一の衝撃が発生し、更に助手が引き継いで調査をするが...といったところで
第二のどんでん返しが発生する。
正直七隈の伏線に関して言えば、結構露骨な伏線に見えた部分があるものもあり、
明かされる事実のうち本筋に関わってくる部分はかなり少ないように見えた。
叙述トリックの第一の矢と言ったような形で作者がミステリとして描くジャブを感じた。
殺人に関しては「(余命わずかで)どうせそろそろ死ぬんだし」となっていた人たちが
何故殺されたのか、という部分はあまり先入観として感じられなかった。これは
きっとミステリとして描かれている以上何かあるんでしょという先入観で上書きされて
いる私が悪い...良くない読み方ですね...
実は殺人自体が起きておらず、律にを見極めるために仕掛けられていた大掛かりな
叙述トリックだったという構成は良い。その点は良いが...
正直個人的に良くなかったと思う点は終盤の律に対する総攻撃のような描写がダメ
だったなぁ...ここまで本格ミステリらしい体裁などを保ちつつやっていたのに、
桜子などのいきなり丸っきりキャラの性格が変わるような描写の多い描き方に見えて
最後の最後で陳腐な物語に見えてしまったんだよなぁ...
実は律を見極めるためという壮大な仕掛けのためとはいえ、ネタバラシ後の態度が
どうにもダメだった...
タイトルの「どうせそろそろ死ぬんだし」は一番最後の春奈が薬剤を砕いてコーヒーに
入れたところから「どうせそろそろ(自分が余命わずかで)死ぬんだし」というの
で毒を入れたと読めるように見えますね。上記の陳腐さからタイトルは回収したけど
この蛇足すらも陳腐に見えてしまったのが残念。
"どうせ"という自棄っぱちはあるものの、絵を台無しにしたからだと殺す動機弱すぎ
ませんか...?(小声)
※以上、ネタバレを含みます※
自分が面白いミステリとしてオススメするかと言われるとしないけど、話題にもなって
いるし構成上の試みとタイトルや作風によるミステリとしての挑戦は見込めるので、
「読んでみれば...?(私は面白くなかったけど)」みたいな作品だった。
気になった方は是非本作も読んでみてください〜。
