砥上裕將『7.5グラムの奇跡』(講談社文庫)の感想になります。
※ネタバレを含みます※
砥上裕將『7.5グラムの奇跡』(講談社文庫)
眼球の重さ"7.5g"、人の目を見ることが好きな不器用だけどまっすぐな新人視能訓練士の成長の記録。
あらすじ
辛い過去も、厳しい現実も、その一瞬先に光があるんだ。
新人視能訓練士・野宮恭一は北見眼科医院で働き始めてから失敗続き。
目に異常がないのに視力が低下した少女、カラコンを頑なに外さない女性、緑内障を患った元ピアニスト――。
様々な目の悩みを抱えた患者と心を通わせながら、少しずつ成長していく。
不器用だけどまっすぐな、新人視能訓練士の成長の記録。
最高の読後感がじんわりと心に沁みる、いま最も心温まる連作短編集。
全編を通して砥上裕將さんの作風が光っていたとても素晴らしい作品だった。
やはり心温まる描写、読みやすい心に染み入る文体、野宮や門村、そして三井のような自分自身を一番活かす方法として何を持っていて、それを文章で表現することが光る人物を描くのが上手すぎる。以下、それぞれの短編の感想になります。
盲目の海に浮かぶ孤島
新人視能訓練士の野宮が北見眼科医院で働く出会いの話と視力の低下が疑われて少女のお話。診察の結果、一見異常がないものの視力の低下が見られるという状況。
心因性視覚障害という病気は初めて聞きましたが、お仕事をしているお母さんと同じようなオシャレなメガネをかけたいという幼い願いの発露からきたもので、物語としてほっこりするようなエピソード。野宮の真面目で不器用な人柄を知ることができる良い短編。
瞳の中の月
自分の瞳がコンプレックスでカラーコントタクトを外せない女性のお話。
同僚からの荷物持ちの依頼で知り合い、知人というだけの関係なのに見過ごせない野宮の不器用かつまっすぐで瞳に真摯な性格が遺憾無く発揮された良い短編でした。
あそこまで実直に人の瞳を褒められるのは一つの才能ですね。
夜の虹
とても良かった。緑内障により自分自身を見つめ直してピアノをやり直す門村さんの再起のお話、その一助となった同じく緑内障を患っている三井さんという喫茶店のマスターがとても良いキャラとして描かれている。
人生というのは本質的に手作りです。自分の手と心で作っていくものです。
三井さんの正しく年齢を重ねた人から出るこの言葉、そして緑内障を発症した同志だからこそアドバイスと目薬を毎日決まった時間にするという丁寧な生活をできる人物の深みがある言葉がとても刺さりました。冷たく怖かった虹が最後には幸福を感じさせる温かいものに変わっていたのも良かったです。
面影の輝度
老夫婦の年月を重ねてきたからこその絆が認知症という病気を通すことで、こんなにも物悲しいものになってしまうのかと、感傷的になってしまった。絶対にくる加齢による病状の進行があまりにも自分ごとのように感じてしまい悲しくなった。
剛田さんのパーソナルな部分をより知ることができて、彼のキャラとしての良さも分かる良い短編だった。彼の優しさが発揮される場面で鍛え上げた筋肉が更に補強してくれるという見方も野宮くんの純粋な魅力だなと思いました。
光への瞬目
野宮くんの成長を感じさせる最初と最後で同じ心因性視覚障害という病状によるお話なのは締めくくりに相応しい短編かつ、日々の視能訓練士としての成長を通して患者に寄り添う彼だからこそ、自信と疑いとの間でバランスを取って、この結末を描き出せたのだなと思う。
私自身コンタクトレンズを使用している時もあるし、最近は作業をする際にはメガネをずっとつけていて視力が悪く、すぐに作品に影響を受けやすいので読んだ後は思わず眼科に行きたくなりました。
2024年に単行本で続編が出ているようで、今から文庫化して読むことが楽しみです。
著者の作品は『線は、僕を描く』を読んだことがあるのですが、本作然り静けさの中に確かな暖かさの残る作風で、登場人物たちが不器用ながらも優しさを忘れない描写が多くて心に染み入る作品に感じます。本作も連作短編として程よく上記の雰囲気を感じられる、少し珍しい題材な作品で、どなたにもオススメしやすい作品です!
気になった方は是非本作も読んでみてください〜。
