夜繙く

主に推理小説などの感想や日常のこと

【感想】小西マサテル『名探偵じゃなくても』(宝島社文庫)

小西マサテル『名探偵じゃなくても』(宝島社文庫)の感想になります。

※ネタバレを含みます※

小西マサテル『名探偵じゃなくても』(宝島社文庫

認知症の祖父が教え子や孫の知り合いの謎を幻視して解決する名探偵ぶりを発揮するミステリのシリーズ2作目。

あらすじ

クリスマス直前、居酒屋で“サンタクロース消失事件”について議論していた楓たちは、紳士然とした男性・我妻に声をかけられた。彼は、かつて小学校の校長を務めていた楓の祖父の教え子なのだという。楓や我妻が持ち込む不可解な謎を、レビー小体型認知症の祖父は名探偵のごとく解決する。しかし、その症状は一進一退を繰り返しており……。スピンオフ掌編も特別収録!

名探偵じゃなくても│宝島社の通販 宝島チャンネル から引用

いやぁ〜、面白かったですね。祖父の病状からくる幻視で謎を解いていき、物語を形作っていく様子は健在で、連作短編集の中で語られる物語は温かくもどこか切ない描写が光る物語となっていて面白かったです。前作からくる不穏な物語の続きや、楓を取り巻く周囲の人物たちの物語も二転三転する楽しさがあって良かったです。特に好きだったのは我妻さんのエピソードですね。

サンタクロースを見た男

岩田教師の過去のお話、本物のサンタクロースを見た夜、ベランダからサンタクロースが消えた次の日に父が失踪したという過去を解き明かす。楓の祖父の推理の冴と病状は健在で前作と同様に病に侵されている老人という切なさはありつつも、彼が紡ぐ物語は優しさと現実の境目を上手に切り分けており、今回の過去のお話で紡がれた推理も良かった。サンタクロースという非現実性を帯びたものに昇華させるのは良い話ですね。

死を操る男

面白い短編でした。俳優の自殺のスマホを持っているけど有線電話から通報するというい不可解な状況、連続してファンも自殺していくがそこにも不可解な点があるというホワイダニットを主軸にしたお話。前編で出会った我妻も出てきて刑事であるという祖父の推理も見事に的中。中々いけすかなない城之内という相棒の刑事も最終的には祖父を認めたりと流石の推理力。状況証拠から一人の著名人に結びつけて、拡大自殺や連続殺人未遂事件への足がかりにする推理力と、最初の美咲との会話のシーンに登場した小学生の背景描写も伏線となっていたのが圧巻でした。

泣いていた男

ビールジョッキを掴んで、泣いた状態で殺されていた警察の同僚の話を我妻が祖父に持ってくるところから始まる。推理の組み立ては未来予知を彷彿とさせるくらい先見が立っていたモノでしたが、死体が"泣いていた"と最後の祖父と我妻の会話で亡き妻のお通夜以降初めて"泣いた"がダブルミーニングとしてかかっていたように感じたのは良かったなと思った。連作短編の中でいきなり新キャラが登場した不審点は城之内が犯人だったという点で幕を下ろしたのも良かったですね。

消えた男、現れた男

様子がおかしくなってしまった四季が自室から生活感を残して猫を置いたまま消えたという謎。九鬼が無罪で釈放されてしまったのですね...四季が愛故に立てた計画が凄まじかった。終章への序章に過ぎないのですが、色々と伏線があり物語が一気に転調する良い章でした。謎自体は分かりにくいものの、ホワイダニット自体はわかりやすい方でしたね。

時間旅行をした男

九鬼の事件はハッピーエンドだったけど、祖父の物語の終わり方としてはやはり病状を考慮するとビターエンドのように感じてしまいますね。美咲の懸念していたすずの件についてはタイムトラベルを意識させる叙述が上手く絡み合い、最後の祖父の幻視により深みを与えていましたね。近しい人に病状とは言え間違えられる悲しみは想像するだけで筆舌にし難いです。楓の恋の行方にも決着がついていそうでしたが切ない終わり方でしたね。

 

祖父の物語を語るような推理は健在でミステリとしての面白さと物語好きには嬉しいような要素も盛り込んだシリーズ二作目としてもちゃんと面白い一作でした。前作の『名探偵のままでいて』が好きだった人や、ミステリが好きな人にはオススメできる作品だと思います。単行本で次作のシリーズ最終作が出ているようなので文庫化が今から楽しみです。気になった方は本作も是非読んでみてください〜。