香坂鮪『みんななにかに縋りたい』(宝島社文庫)の感想になります。
※ネタバレを含みます※
香坂鮪『みんななにかに縋りたい』(宝島社文庫)
台風近づく孤島で行われる依存患者の更生プログラム中に起きた殺人事件を描くクローズドサークルミステリ
あらすじ
孤島の別荘で行われる依存症回復プログラムに、料理人として同行することになった桜子。
恋愛依存、ゲーム依存など、様々な依存症を抱える人々が集う。
しかし1日目の深夜、参加者の一人が不審死を遂げる。
刃物らしきもので首を切られた様子で、現場は密室。
別荘内にある刃物は、桜子が厳重に管理している包丁とナイフのみ。
桜子が参加者から犯人と疑われるなか、さらなる事件が起き――。みんななにかに縋りたい / 香坂 鮪【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア から引用
まぁまぁ楽しめた、面白かったかと言われると微妙なところ。孤島の別荘で行われる依存症回復プログラム、密室殺人、刃物を管理する料理人への疑惑などなど字面だけで購買意欲が爆上がりするような舞台設定は相変わらず前作からお上手。実際に読み始めると依存症という重いテーマを扱ったミステリとしては読みやすい文体となっており読むハードルが高すぎない出来となっていたのも良い。ただキャラクターへの感情移入のしにくさや、結構強引なミステリとしてのオチなどがあったのは微妙なところとして感じてしまいましたね。
クローズドサークルとしての完成度は高く、携帯なし、嵐で交通手段が遮断された孤島の別荘など胸が躍るところがありましたし、依存症患者、精神科医、そして料理人という組み合わせなど、特に自傷リスクのある参加者を考慮して刃物を料理人が管理しているという設定が疑心を生む展開など本格ミステリらしくて良かったですね。更に依存症についての説明は詳細かつ丁寧で、読んでいてためになる部分が多かったです。「依存症は意志が弱いから」という誤解を丁寧に解いていく記述には作者の知識と誠実さが感じられました。ただし終盤まではミステリらしくないという感覚がぬぐえず最終的にはこの知識が真相と深く結びついているのですが、そこに至るまでの道のりが長く、情報過多に感じてしまう人もいそうだなという感触を受けました。
肝心のミステリ部分については密室殺人が二つ、それぞれに工夫が凝らされており、推理小説として真正面から取り組んでいることは伝わったのですが、終盤までは謎解きがあまり確信的に進んでいる様子がなく、かといって終盤の謎解きが納得のいくものだったかと思うと馬場の死体の見立ての部分など強引な部分もあって、納得半分強引さ半分といった感じでしたね。
クローズドサークルのミステリーが好きな方や依存症について関心がある方にはオススメできそうですね。扱っている題材の割には読み終わった後に重たい気持ちにならないので読みやすいミステリを探している方にもオススメかなと思います。ただキャラクターへの共感や感情的な盛り上がりを重視する人には厳しいかもしれないですね。前作よりも読みやすくなったと思いますし、直接的な繋がりはないにせよシリーズとして続くと良いなとは思ったので、次回作があれば読んでみたいです。気になった方は是非本作も読んでみてください〜。
