芦花公園『悪魔の微睡』(角川ホラー文庫)の感想になります。
※ネタバレを含みます※
芦花公園『悪魔の微睡』(角川ホラー文庫)
様子のおかしい青山、その周囲にも影響を及ぼす。怪異の根源となるのは青山の祖父の手記に記されており...
あらすじ
最近、青山幸喜の様子がおかしい。言葉の全てが強く正しく厳しく、怖い。聖書の教えを布教する怪しげな動画チャンネルも運営しているようだ。
佐々木るみは気づく。彼の目に宿る奇妙な光に……。
青山を案じ、調査に乗り出したるみは、彼の祖父が遺した手記を入手する。
戦後すぐの出雲、人々は目から黒い液体を垂れ流し「善くなった」と歓び、家々を覗き込んでは同じ“眼”を探す――。
青山を救う鍵はどこに!? るみはお荷物新米事務員・長尾アカリと共に、佐々木事務所最大の危機に立ち向かう!
前巻『無限の回廊』でるみの苦しみがようやく昇華され、ひとつの区切りを迎えたと感じていたところに、まさかの続編。まぁ中々区切りは良いものの終わりとしてみると消化不良気味なところもあったので続編が出るのは嬉しいところ。そして今回のターゲットはこの物語の「光」とも言うべき青山幸喜。「善くなりましょう」と、かつての温もりをすっかり失った言葉を発し動画を投稿し始めた青山、その動画に感化され黒い涙を流す人々など今までの青山の様子を知っているからこそ尚のこと不気味に映る様相。ホラーとしての怖さと後半にはるみと青山の関係性の深みが高い水準で描かれていて面白かったです。個人的には特に青山祖父の手記の過去編が面白かったですね、奮闘するものの悲劇で終わってしまったどうしようもなさが上手に演出されていたと思います。
まずシリーズにおける青山くんの位置付けは単なる助手を超えており、ひねくれた人物が多い佐々木事務所において彼だけが「裏切らない善意」の象徴だったのだが、その青山くんが「善」の押しつけをする存在に変貌する恐ろしさはホラー描写そのものよりもずっと深く不気味でしたね。
他にも特徴的な部分はあるのだが「善なる者のみの世界」という怪異が悪を排除するために個を捨て、皆が同じになるという論理は一見美しく見えるが、それは人間性の完全な否定であり、善意が強制になった瞬間にそれはもはや善ではないという恐ろしさが上手に描かれておりましたね。自我を失った満面の笑みの集団が声をそろえる光景は、平和でありながら何より気味が悪く新たな角度からの怖さを描いていたと思います。
そして全体の三分の一以上を占める、青山の祖父・パトリックによる戦後出雲の手記パート。現代パートとは打って変わった村もの怪談の雰囲気で物語に重層的な読み応えを与えていたと思います、個人的に結構好きでした。
新米事務員アカリは、思ったことを全て口にせずにいられないという特性を持ちADHD的なキャラクターとして描かれ、業務上の「お荷物」になりかねない存在でしたが、るみの目線から見ると嫉妬を覚えてしまうほどその特性も良い意味で描かれていたりする部分もあるので、中々憎めない存在だと思いました。素直に感情を発露してしまう部分は物語的な部分で一つ良いアクセントとなっている部分もあると思うので、尖りすぎない程度に今後も出てくるのを期待しております。そしてラストで微妙な表情を見せるアカリが、次巻での新たな「隙間」になるのではという予感がひっそりと漂っており続きもありそうで楽しみです。
また作者のnoteにて、設定面などの解説がされていたり本巻で描かれていた怪異の根源などにも言及があったりするので、気になった方は是非そちらもご覧ください。(ここで描かれた設定も物語の中で上手に言及されていたりすると物語も納得が大きくなったりして良さそうだなと思いました)
第一にシリーズ既読者はもちろん必読なお話で特に青山くんとるみの関係性が好きな人には終盤の展開は特に読んでほしいですね。前作から直接地続きの展開でもあるため、できれば一作目から順番に読んでほしいです。「村もの怪談」「宗教や善悪をテーマにしたホラー」が好きな読者にも刺さる内容だったと思います。宗教的な「善」への皮肉、怪異の怖さだけでなく社会的な気持ち悪さも同時に描かれていたりもして、ホラーの雰囲気作りに一役買っていたと思います。前巻の感想も書いてますので、合わせて読んでみていただけると嬉しいです!気になった方は本作も是非読んでみてください〜。
