北森 鴻『屋上物語』(創元推理文庫)の感想になります。
※ネタバレを含みます※
北森 鴻『屋上物語』(創元推理文庫)
デパートの屋上で紡がれる何一つとして救われず、報われることもない幾つもの物語
あらすじ
あるターミナル駅に隣接する有名デパートの屋上には、知る人ぞ知る讃岐うどんの
名店がある。老若男女のファンが安くてうまい一杯を求めて屋上までやって来るが、
同時に不思議な謎も集まってくるのだ。うどんを提供するのと同様に、素早く謎解き
するのは、通称「さくら婆(ばば)ァ」。デパートの屋上で繰り広げられる様々な人間
模様を北森鴻が丁寧に描いた、少しダークな連作ミステリ。
屋上物語 - 北森鴻|東京創元社 から引用
とても面白かった!北森鴻らしい少し物悲しさを感じる描写の中に、人間特有の暖かさ
を内包した人間模様と、救われることも、報われることもない、ただそこにあった物語
がデパートの屋上という舞台装置の上で、人が一つは持っている人生の中での後悔の
ようなものを引きずった大人たちと、まだ真っさらな高校生だからこそ、自分の居場所
を探し続ける展開は最高でした。感情を揺さぶられ、個人的にはとても良かったです。
デパートの屋上で高級うどんを安く提供する立ち食いうどん屋の
「さくら婆(ばば)ァ」を中心にヤクザまがいの杜田、そしてとある事件をきっかけに
屋上に自分の居場所を探すように訪れるようになったタクなど、様々な人間が
デパートの屋上で起きる人死にや日常の謎を解いていく物語をデパートの屋上にある
観覧車やお稲荷様、ピンボールなど様々な物の視点から描かれていく。
全ての短編の終着点に、救いがあるわけでもなく、寧ろさくら婆ァの煩悶する姿や
杜田が過去デパートの屋上で起きた出来事にずっと心に棘が刺さったように
思い悩む姿など、本作の最後に近づくにつれて、人生のほろ苦さや個人の行動が
救いと罪の二面性を持つという点と完全なハッピーエンドとなりきらない点が
個人的にはよかったです。何より「楽園の終わり」で簡単に登場人物たちの
物語や人生に終わりを設けていなかったのが良い。
登場するメインキャラクター自体に救いを用意せず、タクが屋上での出来事や経験を
きっかけにまだまだ青いながらも自分自身の納得や居場所を探す終わり方にしていたの
は「楽園の終わり」からの「タクのいる風景」でギャップによる爽快感を産んでいた
ことも終わり方として個人的にはすごく刺さりました。
このデパートの屋上のうどん屋は東京の某店をモデルにされているそうですね。
2024年に閉店してしまったそうですが、自分も今更ながら行ってみたかったです。
北森鴻のシリーズものは結構読んでいたのですが、単発ものはあまり読んでおらず
復刊で創元推理文庫版の本作を手に取って読んでみると、かなり個人的な部分に
グッと刺さる部分があった作品で、他の単発作品も読んでみようと思いました!
全てが明るい物語といかず、それぞれに明暗の分かれる要素を孕んだ内容だからこそ
そこに良さが見出せる物語だったように感じました。
気になった方は是非読んでみてください〜。
